「社員たちができることに重点を置き、プライド意識を教え込んでいったのです。」
YahooのCEO、マリッサ・メイヤーへのインタビュー
2012年、マリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)がわずか5年間でYahooの7人目のCEOに就任したとき、米国のこの巨大多国籍IT企業は深刻な苦境にありました。人工知能が専門のコン ピューター科学者メイヤーは、1999年に入社したGoogleで出世街道を歩んでいましたが、Fortune 500企業を率いる史上最も若い女性としてYahooに移籍しました。THE FOCUS誌によるインタビューの中で、Yahooの CEOメイヤーが、ハイパーコネクティビティの時代をリードするこの巨大企業の刷新にどう取り組んできたかについて語ります。
THE FOCUS: 2012年にYahooのCEOに就任されたとき、IT業界で象徴的であった企業の威信を取り戻すことを抱負に掲げていらっしゃいました。かつての大企業としての威厳のようなものとして、どんな要素がまだ会社に残っており、そこに何を付け加える必要がありましたか?
マリッサ・メイヤー: それは至るところに残っていて、それぞれを増幅させる必要がありました。適切な人材を採用すれば、そうした人材が素晴らしいサービスを創出し、インター ネットのユーザーがそうしたサービスに反応し、これによってアクセス数が増え、アクセス数が増えれば収益が拡大するという循環を私は強く信じています。そ うやってもたらされた利益を次にまた人材に再投資する。それは、私がこの業界で何度も目にしてきた好循環です。Yahooには素晴らしい人材がいました が、十分ではありませんでした。素晴らしいサービスもありましたが、これもまた十分ではありませんでした。
とはいえ、足がかりとなる基礎はまだあったわけですね?
ええ。大量のアクセス数があって、Yahooが日常生活の重要な一部となっている多数のユーザーがまだいましたが、私たちが目指したのは人々の暮 らしの中でのYahooの営業力を強化することでした。Yahooは米国の3大インターネット企業の1つとして、毎月10億人以上のユーザーがいます。つ まり、世界のインターネット・ユーザーの3人に1人が、どこかの時点でYahooを利用するということです。ですから、会社が成長できる明白な方向性とし ては、ユーザーがYahooと共に過ごす時間が増えるよう、ユーザーにとってなお一層有意義なサービスの提供に着手することでした。
サービスを刷新するために、どれだけの創造的破壊が必要でしたか?
Yahooの制作ラインを調べてみると、2001年以来手つかずになっている要素がいくつかあることが分かりました。つくられてから10年以上も 経過していたわけで、これはインターネットの世界ではいわば古代史です。14年前と同じプログラムや同じデザインをいまだに使っているサービスがあったの です。インターフェースの刷新が急務でした。Yahooのインターフェースは、それをデザイン・開発した当初は最先端のものでした。それでも、世の中はそ の後さらに進んでいて、インターフェースの手直しが是非とも必要でした。まず行ったのはそれです。次に取り組んだのはユーザーのアクセス数を上げることで した。その1つの方法は、言うまでもなく、モバイルにシフトすること。もう1つの方法は、サービスの魅力と有用性を高めること。これも行いました。モバイ ル、ビデオ、ネイティブ広告、ソーシャルからの収益が大幅に増え、2011年の事実上ゼロから、今では10億ドル・ビジネスになっています。収益が50億 ドルもあったら、真の重要性をもった大きなビジネスを生み出して、それを成長させていく必要があります。モバイル、ビデオ、ネイティブ広告、ソーシャル分 野のYahooのビジネスが生み出してきたものこそがそれです。この方針と戦略を実行するのに全社一丸となるのを目のあたりにするのは素晴らしいことで す。
企業としてのYahoo、雇用主としてのYahooについてはどうですか? 着手された変革の内部プロセスはどのようなものでしたか?
まず行う必要があったのは、社風の変革でした。社風は変わりづらいものですが、Yahooを、私がCEOとしてワクワクして仕事のできる場所、前 からいた社員が一層ワクワクして仕事のできる場所にする必要がありました。確かにYahooの伝統の一翼を担うことには感激もし、名誉なことにも思いまし たが、私は高いパーティションの壁で仕切られた世界で育ってこなかったので、つながりをもっと大切にする社風にしたいと思いました。つまり、前からいた社 員には自分が一層大切にされているという気持ちを抱かせ、こちらが採用したい人々にはYahooに加わってYahooのサクセスストーリーに参加したいと 思わせること。収益の高い企業であるYahooには、投資を行える余力があるので、「他の会社での社員への待遇とYahooでの待遇のどちらかを選ぶ必要 はありません。Yahooでは待遇をよくするために十分な投資を行っていますから」と言えます。そのために、当初に行ったことの1つは、食事を無料化する ことでした。
それに対する社内の反応はどうでしたか?
私が気づいた1つの反応は、驚きです。その後、多くの社員が私のところへやって来て、「すごいですね。だけど会社はそんなに儲かっていませんよ」 と言いました。「本当に、そうかしら?」と私は思いました。儲かっていなくても食事が無料の新興企業はそれまでにもたくさんありました。それは私たちにで きる最低限のことだと思っていました。そうすれば、楽な時もつらい時もずっと会社に居続けてくれた人々に敬意を払う一方で、新たに会社に入ってくる人々に とって会社をより魅力的な環境にすることも保証されるわけですから。
混乱期のさなかにあった会社を引き継がれたわけですが、抜本的な変革を図る中、将来へ向けての自信をどうやって植え付けたのですか?
リーダーシップとは人の話に耳を傾けることだと思っているので、最初の数週間はそればかりやっていました。とにかく話を聞くこと。1日2時間、カ フェテリアに文字通り腰を据えて、私と話がしたい誰とでも話をしました。こうした会話から、社員にとって何が大事か、何がうまく行っているか、何がうまく 行っていないかがひしひしと伝わってきました。それで、混乱はひとまず脇へ置いておくのが一番だと判断しました。つらい事が起きるときは、それが一身上の ことであれ、仕事上のことであれ、起きているさなかにそれについて話すのは難しいものです。なので、むしろ、混乱はひとまず脇へ置いて、自分たちにできる ことと、現にうまく行っていることに的を絞った上で、プライド意識を教え込もうとしたわけです。
「Yahooでの仕事は、自分の人生で最大かつ最も興味深いデザインの問題だと考えています。」
「Yahooでの仕事は、自分の人生で最大かつ最も興味深いデザインの問題だと考えています。」
プライドはきわめて主観的な感情です。多くの社員にどうやってプライド意識を教え込むのですか。
仕事へのプライドを社員に持たせる決め手の1つは、決定がどう行われるかをはっきりさせることです。けれどもYahooでは、取締役会がいくつか の経営意思決定にどうやってたどり着いたのか、なぜたどり着いたのか、まるで不透明でした。そこで、FYIと名付けた、社員に最新情報を提供するための週 次フォーラムを開くことにしました。FYIには、For Your Information(ご参考までに)の意味とともに、For Yahoo’s Information(Yahooの参考までに)の意味も込めています。これは、「さあこれから、今後のことすべてについては事前に情報を提供します。 誰からの質問でも受け付けます」という意思表明です。これによって、私自身を含む、社内の色々なリーダーたちの考えを包み隠さず示すことに着手できまし た。会社が今後目指すことになる新たな空間 ― 制作ライン面であれ、実際の物理空間面であれ ― について経営陣がどう考えているのか。カフェテリアのメニューがなぜ変わったのか。誰が新たに会社に加わるのか。浮かび上がってくる事柄には大小様々、多 種多様なものがありましたが、このプロセスを通して、新たな最終決定方法が見つかりました。この方法では、財務情報を一部手直ししたりすることはあるにせ よ、それでも、企業として、できる限り透明性を保つことができます。私たちはさらに一歩踏み込んで、社員自らが重要と考える事柄(ハイライト)と重要でな いと考える事柄(ローライト)を挙げさせてから、社員の投票で賛否を決めることを認めました。これは、一方では恐るべきガバナンス・プロセスですが、その 一方で、取締役たち自身が、これを大いに気に入りました。私がカフェテリアでやっていたのと同じ会話に今や加わることができると感じたからです。取締役会 が社員と直接話をすれば、何がうまく行っていて、何がうまく行っていないのかが常に分かるようになります。そうした対話が生まれるようすることで、社員は 実際、経営陣や取締役会が自分たちを信頼してくれているという素晴らしい実感を抱くようになりました。これは、会社が行っていることに対するプライド意識 を生む助けになりました。そうした推進力 ― 透明性、プライド、信頼 ― を持続させることに一旦着手した後は、それまでの混乱からの脱却が一層容易になりました。
Google では数々の要職を歴任されましたが、Yahooに入社するまでCEOは一度も経験されていませんでした。CEOに就任して以降、一個人として変化はありましたか?
変わりないと思います。CEOになるつもりなどなかったと私がよく口にするもので、野心的でないとか、野心が足りないといって私を批判する人もい ます。「やりたい役割はこれ」と自分に言って聞かせたことなど一度もありませんでした。私はただ、大きな違いを生み出したかったのです。Googleにい た当時、素晴らしい検索技術を持つことが、地球のはるか遠方の地域にいかに影響を及ぼし、世界の変革にいかに役立つかを目のあたりにできました。一度そう した経験を味わってしまったら最後、可能な限りあらゆる場所で、ユーザーや社員のためにそうしたポジティブな違いを生み出したいと思うものです。どこでで もいいからCEOになりたいというのではなく、YahooのCEOという役割が私にとって魅力的だったのは、これまで自分がやってきたことすべてを、まっ たく新しいコンテクストの中で行うことだったからです。メール、検索、マップ、ニュース、モバイル、ソーシャルといった、私がそれまでに取り組んできたこ とすべてを、新たなコンテクストの中で行うこと。ですから、私にとって大きな学習体験でしたが、自分のこれまでの経験を考えれば、まさに適職でした。それ は、Yahooの社員だけでなくYahooのプラットフォームにもポジティブな影響を及ぼす絶好の機会、幅広いユーザーに接触を図る絶好の機会、モバイル とその新しいフォーマットが秘めるあらゆる可能性を探る絶好の機会を与えてくれました。
「仕事へのプライドを社員に持たせる決め手の1つは、決定がどう行われるかをはっきりさせることです。」
Googleでは、プロダクトの外観や仕組みを決定することで名を上げられました。また、Yahooに来てからは、1000人のモ バイル・エンジニアと、60人以上のワールドクラスのコンピューター科学PhDを採用しました。Appleデザインアワードを受賞したWeatherアプ リ、News Digestアプリ、そして最も重要なことに、現在毎月2億2500万人のユーザーを持つYahoo Mailといった、一連のYahooアプリにも着手されました。
私はデザインが大好きです。Yahooでの仕事は、自分の人生で最大かつ最も興味深いデザインの問題だと考えています。ロゴのデザインから、空間 のデザイン、採用方針や慣行のデザイン、制作ラインのデザイン、収益戦略のデザインまで、何もかも。目をやるすべての場所にまた別のデザイン問題があり、 「じゃあ、何が難問で、それをどうやって解決しようか?」と言えるわけです。そうした信じられないほど大きい多面的なデザインの問題に取り組むのは、私に とってすごく魅力的なことです。
他のシリコンバレーの巨大企業に比べてYahooを特別でユニークな存在にしている特質は何ですか?
いくつかあります。まず、1994年の創業当初の時代に遡って考えても、Yahooは常にガイド役でした。当時は「ジェリーとデビッドのワールド ワイドウェブ・ガイド」と称していました。ガイドは、人々に情報を提供するとともに人々を楽しませる必要があります。人々をつなぐ必要もあります。 Yahooが行っていることを見てみると、物事をガイド風の方法で組織化できるというその発想こそ、Yahooのユニークな点です。もちろんこれには異な る色々な側面がありますが ― 例えばソーシャルや検索 ― その内側には独特の個性があります。これはYahooが行うことすべてに見てとれます。メールのデザインの仕方から、コンテンツや、用いる音声に至るま で。それは、「Yahooに来れば、知る必要のあるすべてのこと、是非知りたかったけれど知らなかったことが手に入る」という発想です。
適切な人材の採用についてお聞きします。重要な採用に際して譲れない価値観はありますか。あるとすれば、それは何でしょう?
ある人がかつて私にこう言いました。「馬鹿を容認したらダメ」(笑)。実際、私がまず求めるのは知性です。私は経験よりも、荒削りの知性を重視し ます。慣習にとらわれない、物事のフレッシュな見方は、実際、よりよい結果につながる場合があると思います。Google Newsで働いていたキャリアの初期にそうしたことを目のあたりにしました。ニュース業界経験の豊富な人が誰一人これまで決してとらなかったアプローチを 私たちはとったのです。Yahooには、新しい広告形態であるYahoo Geminiというサービスがあります。この場合も、ディスプレー広告や検索の分野で長く仕事をしてきた人なら、そうした方法は決してしなかったでしょ う。でも、それが成功の理由でした。うちのスタッフがフレッシュな視点を持っていたからこそ成功したのです。
それから、信用の置ける、誠実でブレのない人が好きです。それは私にとってとても重要です。また、人の意見に耳を傾けることのできる、謙虚さを持 ち合わせている人も望みます。私がこれまでに学んだ最良の教訓の1つは、私の師であるエリック・シュミット(Eric Schmidt)から教わりました。彼はこう言いました。「エグゼクティブが自分をはき違えるのは、実際に事を行うのは自分だと独り合点するときだ」と。 これはとても謙虚な姿勢です。自分が事を行っていると独り合点して失敗するエグゼクティブはよくいますから。優れたエグゼクティブが実際にしていることを 見てみると、彼らは人の話を聞き、一定の方向を指し示します。そのあと、彼らのやるべきことは、チームがその方向に走れるよう、そこから退いて邪魔をしな いことです。
スマートフォンやタブレット上でのデジタル・プロモーション領域におけるYahooの飛躍的成長の土台を築くため、「マネーボー ル」と称するハイテク・エキスパートの「ドリームチーム」を2013年に結成なさいました。そして、目標実現の厳しい期限をチームに課されました。この チームの結成は、Yahooでのイノベーション文化促進へのフレッシュなアプローチとして間違いなく大成功を収めました。ユニークなチームスピリットを確 立する面でも、また同時に、緊迫感を生み出す面においても。
確かにその通りですが、このモデルをそれほど頻繁に使うわけではありません。Yahooに来てから、こうした、いわば「ドラフト」(召集)をかけ たのは4回です。ドラフトでは、まず、「当社における目下の最優先課題はこれこれだ」と伝えます。次に、チームに加わるリーダー陣を選び、「誰に協力して もらう必要があるか」尋ねます。基本的に社内の誰を招集して参加させてもかまいません。マネーボールの場合は6週間の期限を設けましたが、最重要課題は、 「Yahooでのネイティブ広告はどうあるべきか」でした。それが年間数百万ドルの余分な収益を生み出すものとなるのか、それとも10億ドル規模のものに なるのか、見当がつきませんでした。結局は、後者にずっと近いものになったわけですが。もしうまく行かないのであれば、これに法外な時間をかけたくはない というのが私たちの考えでした。そこで私は言いました。「構築と立ち上げにかける期間は6週間、さらに、プログラムとすべての作業の仕上げにかける期間と してもう6週間」と。それから先は、プロジェクトにとどまりたい者はとどまってよし、元の仕事に戻りたい者は戻ってよし、と。その時点に、もしマネーボー ル ― 現Yahoo Gemini ― が年商1億ドルに達したなら、すなわち1日273,000ドルを超えたなら、チーム全員とその家族にハワイ旅行をプレゼントすることも約束しました。
反響はどうでしたか?
素晴らしいものでした。3人のリーダーを招集し、さらに彼らが15人を招集したので、結局18人編成のチームが6週間にわった活動することになり ました。ストリーム広告を立ち上げるために42日の期間があったわけですが、チームはそれを39日で立ち上げました。ですから、実のところ期限より3日早 くやり遂げたわけです。チームには褒賞としてささやかな臨時ボーナスを出しました。そうした素晴らしい時間を過ごす中、チームが何かをつかんだのは明らか でした。そこでチームはさらに多くのスタッフを集め、それから4カ月足らずのうちに1億ドルの収益目標を見事クリアしました。昨年のYahooの収益のう ち3億ドルはYahoo Geminiからもたらされたものなので、素晴らしいというほかありません。
「会社の方針と戦略を実行するのに全社一丸となるのを目のあたりにするのは素晴らしいことです。」
そんな厳しい期限を課せられたチームに人を招集するのはどれくらい簡単あるいは難しいですか?
確かにそんなことがいつもできるわけではありません。有無を言わさず招集する徴兵とはわけが違います。誰も、ほかの誰かがリストに載るのを阻止す ることはできないものの、リストに載った限りは、本腰を入れてかかる必要がある、というのが私の考えでした。したがって、リーダーたちはその点についてき わめて単刀直入でした。「このプロジェクトに是非参加してもらいたい。ただし、これから90日間、君の生活を滅茶苦茶にすることになる。実にひどいことに なる。週に6日や7日、1日18時間や20時間は働いてもらうことになる。その一方で、強烈で楽しく、真に充実した毎日にもなる。もしうまく行けば、凄い ことになるからね」と。そう口説かれて、首を縦に振らない人がいるでしょうか? 会社に真の変革がもたらされるというときに、それに加わりたくない人などいるでしょうか?
リーダーシップに対するご自身のアプローチについてはどうですか。
自分では、詳細を詰めるのも、大局をつかむのも両方得意だと思っています。物事を近寄って見たり引いて見たりする傾向があるので、例えば自分が心 から信頼を寄せるリーダーがいたり、あるいは、プロジェクトがしっかり軌道に乗っていると確信している場合には、自分は後ろに引っ込んで、チームの好きに やってもらってかまいません。逆に、うまく行っていなかったり、チームが私のサポートを必要としていていると感じれば、もっと近づいてぴったり寄り添った りもします。
変革を率いることは、会社の内外からの、変革への抵抗を克服することでもあります。抵抗をはねのける精神力を維持する秘訣は何ですか?
強くある必要、目的意識を持つ必要は確かにありますが、企業買収であれ、事業方針であれ、立ち止まって考える理由のある場合がよくあります。これ は女性特有のことなのかなと思ったりもしますが、一人の女性として、私は立ち止まって考えがちです。「ちょっと待って。本当に確信があるの? これを信じているの?」と。でも、その答えが、「ええ、本当に確信がある。これを確かに信じている」だった場合は、人を説得するのが難しいとは思いませ ん。抵抗の克服は一層容易になると思います。ただ、それにも増して重要なことは、決定について考え抜き、自分自身と議論するために必要な内省の時間を持つ ことです。言い換えれば、確信は、深い自省からもたらされるのです。
それは学んで身につけたことですか、それとも、自然にそうできたのですか?
こういう言い方をしましょう。私がかつてもらったもう一つの素晴らしいアドバイスは、CEOが実際に行う必要のある決定は驚くほど少ない、という ものでした。日々の数多くの決定は委任できます。ただし、CEO自らが行う必要のある少数の重大な決定が必ずあります。例えば私の場合は、アリババ (Alibaba)に関してどうするか、タンブラー(Tumblr)を10億ドルで買収すべきか否か、検索に関するマイクロソフト(Microsoft) との再交渉にどう取り組むかといったこと。これらはすべて、一歩退いて、徹底的に考え抜き、あらゆる側面から問題を論じることが常に役立った大きな決定で した。「向こうの目にはどう映るか? 向こうにも、こちらにも、どうすればこれが意味を持つようになるか?」。それは、様々のステークホルダーの議論すべてを考え抜いて、理にかなう見方だと自 分が思うものを考え出すことです。
まとめるなら、CEOに就任されて以来、Yahooは、世間には安定した表情を見せつつも、多大の内部変革を成し遂げてきたと。ちゃんとまとめになっていますか?
外から見れば、非常に安定して見えたかもしれませんが、確かに内部では、どこにエネルギーを注ぐことにするか、社内資源をどう割り当てることにす るかといった面で大きなパラダイムシフトがありました。だからこそ、今後の成長と明るい未来へ向けての備えができたのです。3年前のYahooの制作ライ ンにそんな兆しはまったくありませんでしたから。ですから、会社として、これを大いに誇りに思うべきです。
マリッサ・メイヤーへのインタビューは、カリフォルニア州サニーベールのYahoo本社で、エゴンゼンダー・パロアルト・オフィスのマーサ・ジョセフソン Martha Josephson によって行われました。
マリッサ・メイヤー
1975年5月30日にウィスコンシン州ウォーソーで、フィンランド系の美術教師の母と、環境エンジニアの父の下に生まれる。熟練したダンサー、 論客にして、理系の学生として高校時代を過ごした後、スタンフォード大学に進学して記号システムを学び、卒業論文としてコンピューター・ソフトウェアを制 作。睡眠時間は4時間しか要らないことで有名。ほか14件の就職オファーを断って1999年にGoogleに入社。以後、今ではなくてはならない数々の Googleのプロダクト向けに複数のデザイン・チームの立ち上げに携わる。2012年にYahooのCEOに任命された当時は37歳で、妊娠中。 Fortune 500企業を率いる史上最も若い女性だった。40歳になった今でも、2009年に結婚した、弁護士でベンチャーキャピタリストの夫、ザカリー・ボーグ (Zachary Bogue)と一緒にハーフマラソンを走る。夫妻には3歳の息子マカリスター(Macallister)がいる。
Yahoo
Yahooは、スタンフォード大学で電気工学を専攻する2人のクラスメートによって1994年1月に設立された。2人は自らの考案物を「ジェリー とデビッドのワールドワイドウェブ・ガイド」と名付けた。1995年に会社法人となった後、ユーモラスなYahoo! という名前に改称された。これは、”Yet Another Hierarchical Officious Oracle”(さらにもう一つの階層的でおせっかいな神託)を表す特別につくられた頭字語だった。検索エンジン以前の時代には、Yahooは基本的に、 最初のインターネット・ブームが絶頂を迎える中、ネットのナビゲーションを助けることを目的としたウェブディレクトリーだった。Yahooは現在、45以 上の言語にわたる10億人以上のユーザーと6億人以上のモバイル・ユーザーを有するハイパーコネクテッド・ワールドの巨大IT企業となっている。マリッ サ・メイヤーは2012年以来、Yahooの株価の3倍を超える上昇を取り仕切ってきた。株価上昇は、Yahooが40%以上を出資していた中国のネット 通販企業アリババの2014年の上場も一因だった。Yahooの変革はかなり進んでおり、検索、コミュニケーション、デジタルコンテンツにわたるモバイ ル・プロダクト群と、成長ビジネス分野における健全な収益の流れを飛躍的に拡大させている。マリッサ・メイヤーは、明確なビジョンの下、Yahooをモバ イル・フレンドリーなグローバルIT企業に変えるべく邁進している。
写真: JÜRGEN FRANK